材料の機械的性質と設計のための材料力学


海上技術安全研究所 川田正國,平田宏一
1 はじめに
 スターリングエンジンの動作原理と模型スターリングエンジンの設計・製作については、既に詳しく解説した著書が出版されている1)。模型スターリングエンジンは、一般に作動流体(ガス)に空気を用いて大気圧で運転される構造様式が採用されていることから、教材用としても広く普及している。
模型スターリングエンジン(以下、模型エンジンと呼ぶ)の製作を経験し、もう一歩進んでさらに大きな出力が得られるようなエンジンを作るとき、エンジン内部の作動ガス圧力を上げるのが効果的である。その構造例を図1に示す。
 図1に示した模型スターリングエンジン(以下、加圧型模型エンジンと呼ぶ)の設計・製作においては、従来の模型エンジンと共通する構造材料が用いられている。そこで材料の種類とその性質および圧力容器の強度計算に必要な材料力学の基礎について解説する。


2 強度設計のための基礎知識
 設計における強度計算では、材料の物理的、機械的性質を理解しておかなければならない。一般に、材料の引張強さを基準とした構造設計においては'許容応力'の値が用いられている。そこで、構造設計における材料の許容応力と安全率の考え方について述べる。さらに、模型エンジンと実用スターリングエンジンの構造上の相違点についても簡単に説明する。

2.1 材料力学的基礎知識
 材料の引張試験では図2に示す応力―ひずみ線図が得られる。鉄鋼材料では一般に同図(a)に示す応力―ひずみ線図が得られ、降伏点を示すことが特徴である。一方、降伏点を示さない材料では同図(b)に示すような応力―ひずみ線図が得られ、JISでは0.2%の永久ひずみに対応する応力の値を耐力(降伏点応力に相当)として規定されている。
 耐力の求め方について、図3を用いて説明する。材料を引っ張ると図に示した曲線が得られたとする。そこで図の横軸O mを永久変形の指定された値(0.2%)に等しくとる。次にOAに平行にm nを引き、試験によって得られた曲線との交点を求める。この点から横軸に平行に線を引き、縦軸と交わった点の応力値が材料の耐力を表す。降伏点を示さないアルミニウム合金やステンレス鋼、黄銅等の耐力はこのようにして求める。
 材料の引張強さは、引張試験で材料の発揮し得る最大引張応力(最大荷重を原断面積で割る)であり、最大引張応力は材料の弾性限度(力を抜いたら元の形に戻る)をはるかに超えたところの値となる。したがって、材料を機械(部品)に使用する場合には十分な安全性を考え、負荷によって生じる応力の大きさは材料の弾性限度以下としなければならない。実際の設計では材料の引張強さを基準強さとして、その何分の一の応力を許容応力(許容引張応力)として用いている。安全率は材料の基準強さを許容応力で割った値である。すなわち
安全率=基準強さ / 許容応力
または
許容応力=基準強さ / 安全率
 安全率の値は表1に示すとおり、材料の種類や負荷の形態(静負荷あるいは動負荷)によって変わる。ここに示した値は材料の基準強さに基づく設計手法、あるいは簡単な設計計算の目安を与える。本来、安全率は設計者自身がこれまでの経験と実績に基づき決めるべきもので、例えば類似設計の場合には経験値を参考に決めることができる。また、新規設計の場合には要素試験等によるデータの蓄積によって、適切な安全率の値を設計に反映させることになる。基本的には材料の品質のばらつきや加工の難易度等、種々の不確実さと部品の重要度から許容応力の値が定まり、それと関連して安全率の値が決められる。

2.2 実用エンジンと模型エンジンの構造の違い
 図4に模型エンジンの構造模式図を示す。図中には主要部品のそれぞれについて、使用した材料名を記している。模型エンジンの実用エンジンとの大きな違いは、構造的に明確な加熱器と再生器を持たないことである。エンジンにとって重要な冷却(排熱)も、作り易さの観点から大部分が空冷式を採用している。
一方、実用エンジンは作動ガスに分子量の小さなヘリウムや水素が用いられ、密封された容器の中に数メガパスカル(MPa)から10 MPa程度の高い圧力で充填されている。実用エンジンの構造は複雑であり、その開発には安全性や信頼性を含め、多くの知識と経験を必要とする。

3 模型エンジンの構造材料
 図1に示した加圧型模型エンジンの設計・製作では、大気圧運転では問題とならなかった圧力容器(容器の中の圧力が大気圧以上の場合、圧力容器と呼ぶ)構造としての強度計算が必要になる。模型エンジンあるいは加圧型模型エンジンの場合にも基本的には同種の構造材料を使用することができる。そこで図4に示した模型エンジンに用いた材料の種類とその機械的性質について説明する。

3.1 圧力容器用材料2)

(1)ステンレス鋼
 ステンレス鋼は、JISでは[SUS]という記号で表されている。図4に示した模型エンジンの加熱キャップにはステンレス鋼(SUS304)が用いられているが、この材料は比較的入手し易く、また加工性や溶接性にも優れているのが特徴である。実用エンジンの構造材料としてはSUS304の他にもSUS310(S)およびSUS316(S)等が使用されている。これらの材料はオーステナイト系ステンレス鋼であり、その特徴は非磁性で耐食性に優れ、冷間加工および溶接が容易なことである。
 図5にステンレス鋼の許容引張応力に及ぼす温度の影響を示す。ステンレス鋼は650℃程度までの温度であれば構造材としての強度を有している。また、ステンレス鋼は熱伝導率も低いので、一方が高温で他方が低温(室温付近の温度)になる加熱キャップの材料として適している。

(2)アルミニウム合金
 アルミニウム合金は、JISでは[A]という記号で表されている。図1に示した加圧型模型エンジンのクランクケース材料にはアルミニウム合金(A2017)が採用されている。図4に示した模型エンジンの連結板も同種のアルミニウム合金が用いられ、フランジ付きの加熱キャップと低温シリンダをそれぞれねじ締結し、それらの作動空間をガスが往復するための穴が設けられている。A2017はジュラルミンとも呼ばれ機械的な強度が高く、加工性にも優れているのが特徴である。また、アルミニウム合金は熱伝導率が銅に次いで高いので、作動ガスを冷却(排熱)するには適した材料である。表2にアルミニウム合金の種類とその特徴を示す。

 図6にアルミニウム合金(A2024)の温度と許容引張応力との関係を示す。同図より、アルミニウム合金は温度100℃を越えると強度が低下するので、高圧容器の構造材料として用いる場合には運転時に発生する圧力と使用温度の上限に注意する必要がある。

3.2 その他の部品材料

(1)銅合金
 図4に示した構造例ではフライホイールの材料に黄銅を用いている。黄銅は銅に30〜40%の亜鉛を加えた合金で、密度が高く、機械加工性に優れた材料の一つである。機械加工後に研磨剤で磨くと金色に近い光沢面となるので、模型としての見栄えも良くなる。なお、板材と棒材では性質が異なる場合があるので、目的用途によっては取り扱いに注意が必要である。

(2)鋼材(炭素鋼)
 
鋼には多くの種類があり、その用途も構造用から工具などの特殊用途まで広い範囲に及んでいる。この中で、一般構造用圧延鋼材と機械構造用炭素鋼鋼材は良く知られた材料である。一般構造用圧延鋼材は炭素含有量が少ないので焼入れ効果はなく、そのまま使用するために'なま材'とも呼ばれている。JISでは「SS」の記号で表され、材料の最小引張強さで分類されている。その代表的なものがSS400であり、「400」は最小引張強さが400 N/mm2であることを表している。
 機械構造用炭素鋼鋼材は、機械部品の材料として一般に使用されている。JISでは炭素の含有量によって20種類(処理方法を含めると23種類)に分類されているが、一般に用いられるのはS35CとS45C等である。ここで「35」とは炭素の平均含有量が0.35%であることを意味している。これらは熱処理や硬化処理することによって、機械的強さが要求される部品の材料として使用される。図4に示した模型エンジンではクランクピンおよびピストンピンに用いられている。
 なお、一般に炭素量が0.25%以下の炭素鋼は溶接が容易であるが、0.35%以上含む鋼の溶接は特別の注意と技術が必要となる。

 模型エンジンの製作では部品締結用に、ボルト・ナットおよび座金等のねじ部品が用いられている。ねじ部品の材料にはステンレス鋼や炭素鋼等が用いられている。図7にねじ部品材料の温度と許容引張応力の関係を示す。高圧容器の締結には炭素鋼(S45C)や高温用合金鋼(SNB16)製のボルトが適している。S45Cの最高使用温度は350℃(温度350℃以上のデータは示されていない)、SNB16では500℃程度までである。使用温度が550℃以上では許容引張応力の大きなSUS304あるいはSUS316製のボルトを使用することになる。ただし、SUS系ボルトの使用最高温度800℃における許容引張応力は、室温付近の値の1/10以下まで低下する。また、炭素鋼のボルトを使用する場合、錆の発生によって強度が低下するので防錆対策を考えておくことが重要である。
4 圧力容器の強度計算
 ガスが充填された圧力容器の破壊は液体容器に比較して大きな被害をもたらすことがあるので、強度計算は慎重に行わなければならない。強度計算は設計の基本なので、ここでは材料力学に基づく計算式を示す。

4.1 加熱キャップの強度計算
 図4に示した模型エンジンの加熱キャップは一方が加熱され高温であり、他方は冷却器(連結板がその役割を果す)を介して排熱されているので室温付近の温度に保たれる。加熱キャップは胴と底板およびフランジが一体構造となっているが、必要とする板厚(肉厚)は図8に示すように、材料力学における内圧が作用した薄肉円筒の問題として、円周方向に働く引張応力と底板方向に働く引張応力の大きさから求められる。

(1)円周方向に働く引張応力
 図8(b)より、加熱キャップの内径をDi、胴の板厚をt、軸方向長さをL、内圧をpとする。内圧によって胴の部分を引裂こうとする力(全圧)P1は、P1=p×Di×Lで与えられる。加熱キャップは胴の断面積(2×t×L)でP1を受けることになるので、応力 rは次式で与えられる。
 または、  (ri:内半径)
図4に示した模型エンジンあるいは図8(a)に示した加熱キャップの胴部最小肉厚tは0.5 mmである。このような薄肉円筒形状のシリンダ加工では、偏肉(肉厚tの不揃い)に注意しなけらばならない。

(2)底板(軸)方向に働く引張応力
 
図8(c)より、内圧pによって底板が受ける力は、全圧をP2とすればP2=p×( /4)×Di2で与えられる。この力は加熱キャップの円筒断面積( ×Di×t)で受け止められるので、応力 tは次式で求められる。
 または、  (ri:内半径)
板厚tはσrおよびσtの計算値が許容引張応力以下となるように決めなければならない。

4.2 低温シリンダの強度計算
 
低温シリンダの強度計算は、加熱キャップと同様に計算できる。低温シリンダは室温付近にあるので許容引張応力の値も大きいので、計算で求めた板厚は小さくなる。したがって、実際の板厚は要求される精度と加工の容易さで決められる。

4.3 クランクケースの強度計算
 図9にクランクケースの基本形状を示す。同図(a)に示した円筒形状の場合、上述した加熱キャップの板厚が算出できれば、胴部の最小肉厚は同様にして計算できる。ただし、同図(b)に示した角形の場合には、角部分で局部的に応力が高くなる(応力集中)ので内側の角を丸めるか、または十分な板厚とする必要がある。クランクケースは同図(c)に示すように、加熱キャップ取付け穴や回転軸をエンジンの外に取出すための穴などが設けられるので、圧力容器としての機械的強度を満足するように実際の板厚を決めなければならない。
 図1に示した模型エンジンのクランクケースは円筒形状であるが、実際の板厚は計算で求めた板厚に比較して大きくなっている。それは内圧が作用した場合の変形量を抑えること、および円筒面の一部をフランジ固定用に平面に加工し、さらにフランジを取付けるためのめねじを加工しているためである。
5 ねじ締結部の強度

5.1 ボルトの規格と必要本数
 図1に示した加圧型模型エンジンでは加熱キャップやモータハウジング等の部品はフランジを介してクランクケースにボルトで締結されている。ボルトにはフランジをクランクケースに取付けるために生じる応力(力)、シールを締付けるための圧力(力)および作動ガスの最高圧力(力)の三つの力の和が引張応力(力)として働く。
 ねじ締結部の強度計算では、すべてのボルトに均一な引張応力が作用するとは限らないことを考慮し、ボルトの規格と本数を決める必要がある。また、高圧容器のねじ締結では細目ねじは強度の点で不利であり、その使用はなるべく避けるようにする。

5.2 ねじ部の長さとめねじの下穴径
 図10に示すような押えボルトのおねじ(ボルト)とめねじが噛合っている部分の長さ(はめあい長さ)について考える。この長さがあまりにも短いと、例えばボルトを締付けたとき、あるいは高い内圧が作用したとき、ねじ山が引きちぎられることがある。そこで、 筆者の"ものつくり"の経験から、おねじとめねじの両方が鉄鋼材料の場合、はめあい長さはねじの呼び径と同程度に、めねじ側の材料が鋳物(FC200)の場合には1.5倍程度にしている(M3からM6のねじに適用)。このようにすれば並目ねじあるいは細目ねじを使用することができる。
 次に、ねじの下穴寸法について説明する。ねじ締結ではめねじの下穴径も強度を保障する上で重要である。表3は筆者のこれまでの経験から、めねじの下穴加工に用いるドリルの直径と材料の関係について示す。ステンレス鋼は鉄鋼材料や黄銅材料に比較して展延性があるために、ねじ切りは注意して行わなければならない。とくにM4以下の小さなねじ切りでは、ときどき工具(タップ)を破損してしまうこともある。そこで、ねじ切りの作業性を考えて下穴径は少し大きくしている。ステンレス鋼や鉄鋼、そして表には示していないが、アルミニウム合金等のねじ切りを上手く行うには切削油が必要である。
6 加圧型模型エンジン製作の試み
 より大出力を得る模型エンジンとして、図1に加圧型模型エンジンの構造例を示した。加圧型模型エンジンは、大気圧運転の模型エンジン設計とは構造強度や熱的特性についての考え方が異なり、より詳細な検討が必要となる。構造強度に関する例として、加熱キャップの形状寸法は図5に示した温度と材料の許容引張応力の関係から決まる。クランクケースの実際の形状寸法は、強度だけでなく部品組立において基準となる面の精度(変形)も考慮して決めなくてはならない。
 熱的なバランスを維持するには、加熱キャップからの排熱の問題を解決する必要がある。図1に示した構造例では、大量の排熱を行うために模型エンジンの空冷式から水冷式に変更している。
 以上述べたとおり、加圧型模型エンジンの設計・製作ではいくつかの課題を解決しなければならない。模型エンジンと同程度の大きさで、それとは桁違いの大きな出力を得ようとする加圧型模型エンジンを作ることによって、新しい知見が得られると考える。
7 おわりに
スターリングエンジンの強度計算に必要な構造材料の機械的性質について説明した。加熱キャップの強度は、材料力学で学んだ薄肉円筒の式を用いて計算できることを示した。ねじ締結部ではこれまでの経験に基づき、ねじのはめ合い長さについて述べた。設計の基本は安全であり、そのためには"材料の特性を知り、それをどこまで引出せるか"ということになる。なお、実用エンジンに適用される強度計算手法の基礎に関しては、別途解説する予定である。
参考文献
1)岩本昭一、浜口和洋、平田宏一、松尾政弘、戸田富士夫、模型スターリングエンジン、山海堂、1997
2)日本規格協会編、JISハンドブック 高圧容器・ボイラ、日本規格協会、2005
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